——宮本さんが料理人を志したきっかけを教えてください。
母が料理上手で食べることはもともと好きでした。両親からは「会社員になるよりも、手に職をつけた方がいい」と言われて育ちましたね。「料理の鉄人」というテレビ番組を見て、料理人に憧れ、この世界に入りたいと思うようになりました。
——高校を卒業後は、会社員をされていたと聞きましたが。
はい。東京で2年間、会社員をしてお金を貯めて、専門学校に入るための資金にしようと考えました。福岡は東京などに比べて授業料も安く、ナカムラは講師や設備が充実したので、ここで学ぼうと決めたのです。
——ナカムラに通われていた2年間で、どんなことが印象に残っていますか?
桂むきの試験です。どう見ても私は合格点のはずなのに、先生が合格させてくれなくて。後日、「あれはわざと不合格にしていたんだよ」と聞かされました。私は最初から日本料理を目指していましたし、1回で合格させてしまうと、それ以上練習しないだろうと考えてのことだったそうです。今、振り返ってみるとありがたいことだなと思いますね。
——学生のことをよく考えていらっしゃる先生ですね。
はい。ナカムラは先生と学生の距離が近いと感じますね。学生がどこに就職したとか、今、どこで何をしているというのを知ってくださっています。私は当初、ホテルの日本料理部門に就職しようと考えたのですが、先生から「お前はほかの道へ進むかと思っていた」と言われたんです。就職試験に合格し、ホテルの調理場を案内していただいたんですけど、「あれ?思っていたのとちょっと違うな」と感じました。そのことがきっかけで、「本湖月」に入らせていただくことに。学生一人ひとりをきちんと見て、行くべき道へと導いてくださいます。
——料理をされていく上で心がけていらっしゃることは、どんなことでしょうか。
日本料理のセオリーなどはあまり関係なく、自分だったらこういう食事がしたいなというものを表現しています。見せ方はクラシックですが、セオリー通りが正しいとも思ってはいなくて。「本湖月」で学んだ流れに沿っていくのもいいですが、ときには順番を崩すこともあります。器も味付けも“和”のものを使用し、日本料理に着地させますが、レモンやハーブなど“洋”の食材を使うこともあります。
——料理人をめざす若者たちに伝えたいことはありますか?
料理の世界はスタートラインに立つまでがとても難しいのです。料理をする以前に、挨拶や言葉遣いといった社会人として必要なものを身につけなければなりません。調理場に入る前に学ぶべきことがあるんですよね。私自身も「本湖月」に入ってから、しばらくは調理場以外の仕事をさせていただきました。与えられた環境でできること、学べることは必ずあります。そういったことを念頭において、1日1日を大切に過ごして欲しいと思います。
——ありがとうございました。
ここ数年、ナカムラの特別講師として、後輩たちに教える機会を持たせていただいています。そのとき、必ず伝えるのは、根本的なことの大切さです。お料理は“気”が入っているもの。どれだけ技術があったとしても、挨拶や言葉遣い、ふるまいなども含めて、気持ちが整っていなければ、料理人としてのスタートラインに立つことは難しいのではないでしょうか。まずは、根本的なことを身につけることの大切さを、しっかりと学んで欲しいと思います。