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パティシエをめざすようになったのは、いつ頃からでしょうか?
子どもの頃から甘いものが大好きでしたが、ケーキといえば高級品で、日常的に食べられる感覚ではありませんでした。クリスマスに母が勤め先から買ってきてくれたケーキを喜んで食べた記憶があります。大学に進学したものの将来を真剣に考えた時、お菓子をつくる仕事に就きたいと思うようになりました。
——ナカムラを知ったのは?
大学卒業後は専門学校に進みたいと親に相談したところ、大学生の間に学費を貯めなさいと言われ、それなら大学を辞めてアルバイトしようと実家に帰りました。そのアルバイト先でナカムラに製菓コースができたと聞き、入学を決めた感じですね。
——ナカムラでの思い出もぜひ教えてください。
僕の場合、調理器具の使い方も分からない状態からスタートしたので、授業は常に新鮮で面白かったですね。学ぶことばかりでしたが、今思えば、座学をもっと頑張っておけば良かったという後悔もあります。とはいえ、学生時代に出会った先生が卒業後も仕事の縁をつないでくれるなど、気がつけば20数年間もお世話になっています。独立前に働いた「グランドハイアット福岡」も先生の紹介がきっかけでした。
――都心ではなく須恵町に店を構えた理由を教えてください。
地元は久留米ですが、どの場所で開業するか探す中で、この辺りにケーキ屋さんがないことに気づきました。近くに家を新築したこともあり、地域貢献につながることができたらと考えましたね。フランス菓子が僕自身のベースにあるので、本場のフランスのように食後のデザートとして気軽にケーキを食べて欲しいという想いもここなら叶えられるだろうと。やっぱりケーキは美味しいですし、地域の人々にもケーキをもっと身近に感じていただけたらと思っています。
――お菓子づくりのこだわりを聞かせてください。
材料はゼロベースから考えました。小麦粉は九州産、卵は先輩から紹介してもらった飯塚のブランド卵を使用しています。生クリームも50種類近くをテイスティングし、いちばん食べやすいと感じたものを選定。食べた時の美味しさで選びたいと考えていたので、価格は少し高くなりましたが妥協していません。お菓子によってメリハリをつけていますが、テリーヌショコラに関してはフランス・ヴァローナ社のチョコレートを使用。原価は高くなりますが、都心よりは場所代が抑えられるので、質にこだわれるメリットを感じています。実際、近隣にケーキ屋さんが無いのでお客様にも恵まれていますし、商工会と町おこしの商品を開発するなど、地域貢献につながる活動もできています。
――パティシエとして大切にしていることは?
店名の「アンサンブル」はフランス語で“共同”や“共営”という意味を持ちます。僕一人だけですべてをしているのではなく、チームでする仕事です。一緒につくるスタッフがいて、食材を生産する農家さんがいて、食材を運ぶ業者さんがいて成り立つため、みんなと一緒に盛り上がっていけたらという思いを大切にしています。
――今後の目標を教えてください。
もっといろいろなことに挑戦したいですね。カフェを運営してパフェやかき氷もつくりたいですし、マカロンもつくりたい。飴細工やチョコレート細工を使ったケーキもつくりたいですね。経営との兼ね合いもあり、今は日々のケーキを製造して販売するだけで精一杯ですが、もっと受け皿を大きくすることで地域貢献につなげたいとも思っています。そういえば、学生時代に先生から「まわりにいる人が少しでも幸せになれるように」と教えられていましたが、今になってようやくその言葉の本当の意味が分かるようになれたと感じます。お客様からいただく期待に応えられるケーキ屋さんでありたいと思いますね。
——ありがとうございました。
学校では座学もしっかり学んで欲しいと思います。なぜなら、新しいケーキを考えるにも耐久性や栄養成分など理論的な知識は必ず役に立ちますから。また、僕自身の経験でいえば、料亭でアルバイトしていた当時、一緒に働いていた人と仕事上で再会して新しい付き合いが生まれたり、バーのアルバイト経験からお酒の組み合わせを学んだり、異業界を見てみることで人脈や知識を広げることができました。いろいろなことに興味を持ち、何事にも挑戦してみてください。