——伊藤さんが料理人を志したきっかけを教えてください。
小学校の卒業文集には、すでに「料理人になりたい」と書いていました。母が料理上手でいろいろ作ってくれたことも影響しているかもしれません。高校が進学校でしたので大学へ進学する同級生がほとんどでしたが、料理人になるという夢を叶えるためにナカムラへの進学を決めました。
——どのような学生生活を送られたのでしょうか。
めちゃくちゃ楽しかったですね。小学校、中学校、高校と学生生活を送ってきましたが、専門学校は同じ道をめざす仲間が集まっています。楽しすぎて3年間も通ってしまいました(留年しました…汗)。
——卒業後はどのようなキャリアを築いてこられたのでしょう。
中華が好きでしたので、現場実習は脇屋シェフの「トゥーランドット臥龍居」へ行かせていただきました。就職もと考えたのですがご縁がなくて。東京で学びたいという想いが強かったので、四川料理の「麻布長江」へ就職することに決めました。東京の店舗を志望したものの本店のある香川・高松へ配属に。2年ほどみっちり学ばせていただき、福岡へ戻ってきました。福岡の中華料理店で働き始めたものの1年ほどで退職。約2年、飲食業界を離れサラリーマンとして働いた後、再び飲食の世界へ戻ることにしました。洋食店で店長なども経験させていただく中で、独立するときは、何か一つのものに特化したお店にしたいと考えるようになったのです。それが牛肉でした。牛肉って特別感がある食材です。牛肉が食べたい!と思って来ていただけるようなお店にしたいと思いましたね。牛肉のことを学ぶために精肉店で1年間働かせていただいた後、2009年5月に『膾炙』をオープンしました。
——『膾炙』は、どのようなお店ですか?
「牛肉が食べたい」と思ったときに、焼肉でも鉄板焼きでもなく、コースで楽しんでいただくお店でありたいと思っています。以前は部位に特化したアプローチをしていましたが、数年前からはより幅広い部位を使うようになりましたね。使わせていただいているのは、唐津の「なかむら牧場」のお肉です。「なかむら牧場」は雌牛だけで2000頭を飼育する牧場。脂が控えめで赤身の味が強いのが特徴です。『膾炙』では、そのお肉をコースでお楽しみいただくのですが、一般的なコース料理ってメインのときにそこそこお腹が満たされてしまっている状況になっていることが多いと感じていて。私はメインのお肉をいちばん美味しく食べて欲しいので、メインに至るまでの料理は重くなりすぎないことを心がけています。
——今後の展望について教えてください。
お客様に喜んでいただけることが嬉しいので、料理も接客もどちらもしたいと思っています。なので、多店舗展開などは考えていません。「福岡でお肉を食べるなら『膾炙』へ行こう」と思っていただけるようなお店をめざしていきたいと思っています。
——ありがとうございました。
私は1つのジャンルやお店で長年修業を重ねた料理人ではありませんが、料理人は美味しい料理をつくることはもちろんのこと、お客様に喜んでいただける仕事であることに魅力を感じています。店づくりや雰囲気、タイミング、サービスも全て大切な要素なんですよね。お店をやっていて嬉しいことの一つに、スタッフに対して「ありがとう」と言っていただけるということがあります。お客様が来られたときに受け入れられる人であり、お客様から受け入れていただける人であることがとても大事だと思います。価格帯やジャンルに関係なく、まずはお客様を受け入れ、受け入れられる人であってください。